『イニシエーション・ラブ』 乾くるみ
■『イニシエーション・ラブ』 乾くるみ 原書房 現代小説
近頃じわじわと話題を集めているこの小説は、3つの顔を持っています。
1つ目は恋愛小説。1980年代後半、奥手な静大生の「僕」が、人数合わせで呼ばれた合コンで、ひとりの女の子に出会うところからこの本は始まります。どこにでもいる男女の、ごく普通の恋愛。それが丹念に描かれてゆきます。
2つ目は静岡ローカル小説。物語の主な舞台は静岡市です。出会ったときの合コンのメンツは、鈴木・成岡・望月・青島・渡辺・大石などおなじみの姓ばかり。二人が再会するのは静波海岸、初デートの待ち合わせは青葉公園、クリスマスイブを過ごすのは静岡ターミナルホテル。静岡人にしかわからないローカルスポットが、これでもかとばかりに満載されています。
ちなみに、作者の乾くるみ氏は静岡生まれの静岡育ちで、静岡大学出身。いまも静岡に住んでいるという噂の生粋の静岡っ子です。また女性のようなペンネームですが、れっきとした男性であることに注意!
そして最後の3つ目は……ヒミツです。最後まで読んだ人にだけ見えてくる、この物語の本当の顔。それこそが、この小説が話題になっている最大の理由なのです。今はこれしか言えません。「いいからまずは読んでみて!」
[追記 2007.04.10]
1,680円とかなりのお値段がしたこの本が、お求めやすい文庫本になって再登場しました!
⇒ 『イニシエーション・ラブ』文庫版 乾くるみ 文春文庫
今度は599円と、1,000円以上価格が下がっての発売。うれしいですねー。みなさん、この機会にぜひ読んでみてください。
<by Ko>
【関連リンク】
⇒ 『イニシエーション・ラブ』単行本 乾くるみ 原書房
⇒ 『イニシエーション・ラブ』文庫版 乾くるみ 文春文庫
⇒ 乾くるみ氏の著作
⇒ 『イニシエーション・ラブ』の冒頭部分が読める原書房のページ
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七月の「ホンでもってGO」のプレゼント抽選に応募したところ「イニシエーション・ラブ」が当たってしまいました。思いもかけぬプレゼント有難うございました。早速読ませていただきました。一言では言い表しえない小説だと思います。
帯には「必ず二回読みたくなる小説」というキャッチフレーズがありますが、一回読んだだけでも成り立つ物語ではないかと思います。しかし、これは、情緒的にこの本を読んだ場合だと思います。論理的に読みたい、あるいは、矛盾を解消したいと思う人は、必ず二回読むのではないでしょうか。
恋愛小説として読むのであれば、不満が残るものの、一回読めば目的が足せ、ミステリーとして読むのであれば、再読したくなる、と言うこともできると思います。
本の題名が「イニシエーション・ラブ」とあるので、私は何の疑いも持たずに、恋物語だと決め付けて、読んだのですが、それはそれで通るのです。「イニシエーション」という言葉を、著者は「通過儀礼」というふうに言い表していますが、わたしは「手ほどき」と素直に解釈したくなりました。
若い男女がふとしたことから交際を始め、体の関係に行き着くまでの描写は、実に丁寧で、恋愛体験のない読者に恋の指南をしているかのようです。それが本の題名をほのめかしているのではないかと思ったのです。
しかし著者はいたずら心を出したようです。私のように読んだ読者をせせら笑っているのが感じられもします。あるいはにんまりと笑っているのが感じられます。
「恋愛」+「パズル」=「イニシエーション・ラブ」が著者の意図する方程式のようですが、なかなか解き応えのある方程式だといえるのではないでしょうか。では、また。
投稿: しまちゃん | 2005年9月 5日 (月) 11時41分
>しまちゃんさん
TNCめるまがのプレゼント、当たりましたか。おめでとうございます。
おっしゃるとおりの面白い構造を持った小説ですね。実際「ふつうの良くある恋愛小説だ」と思って終わってしまう人もいるのだとか。恋愛小説・静岡ロカール小説に続く第3の顔、そしてこの小説の本当の顔を知らずに読み終えてしまう人が。
細部まで色々読みこんでみてください。表紙の意味だとか、国鉄の民営化とか。たぶん、新たな発見がありますよ。
投稿: Ko | 2005年9月 5日 (月) 11時47分