ちゃっきりぶしのひみつ
こんにちは、Koです。連休中に日本平山頂を訪れたところ、日本平パークセンターの屋上に「ちゃっきりぶし記念碑」なるものを見つけました。
♪唄はちゃっきりぶし~おとぉこはぁ~じろちょぉ~
という唄いだしで始まるこの静岡民謡を、全く知らないという静岡県人はまれでしょう。しかし、この唄が遊園地のテーマソングとして生まれたものであることはご存知でしょうか。
遊園地のテーマソング。つまり、ディズニーランドにおける「イッツ・ア・スモールワールド」と同格です。何か面白いネタが埋まっている匂いがします。早速調査開始です。
ちゃっきりぶしを作ったのは、当時「静岡電気鉄道」と名乗っていた現在の「静岡鉄道」です。作成当時の事情は、静鉄のホームページに大変にくわしく載っています。
⇒なるほどコラム『ちゃっきりぶし誕生秘話』
静岡電気鉄道は、昭和2年に「狐ヶ崎遊園地」を開園させました。「狐ヶ崎遊園地」は後の「狐ヶ崎ヤングランド」。今は閉鎖され、ジャスコ清水店の3階にある「狐ヶ崎ヤングランドボウル」にその名残を留めています。
この遊園地開園に当たり、静鉄はそのアピールのためにCMソングを作成することにしました。その詞を書いてもらおうと、静鉄が選んだのがなんと、かの北原白秋でした。
白秋は当時40過ぎ。すでに確たる地位を築いていた詩壇の重鎮です。
静鉄の長谷川貞一郎部長は昭和のはじめ、その依頼内容を抱えて、北原白秋のもとを訪れます。偉大な詩人はかなり面食らったのではないでしょうか。
「私に宣伝用の唄、しかも地方民謡を作れと?」
長谷川部長、あえなく断られます。
白秋は、取り次ぎの者を通して「私は民謡をつくったことがないから」と、面会を断った。要するに、門前ばらいをしたのである。
ならばというわけで、つてを頼って紹介状を書いてもらい、長谷川部長、何とか白秋に面会。なおも渋る白秋に、是非に是非に、と頼み込んだようです。
その結果、白秋もついに長谷川部長の熱意に感動し、唄をつくることを快諾したばかりか、今までの非礼を詫び、励ましの言葉さえかけてくれたのだった。
すごい、すごいよ長谷川部長! ついに口説き落としたんだね!
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作詞のインスピレーションを得てもらうために、静鉄は白秋を静岡に招き、下にも置かぬもてなしをします。芸者衆をあげての痛飲。北原白秋、これにはおおいに喜んだらしいです。白秋って、そういう人だったんですねえ。
▲白秋が詩作を練ったとされる「千手寺」の「白秋庵」
さて、がんばってもてなした甲斐あって、白秋先生、詞を仕上げてくれました。新しい静岡民謡がここにうぶ声をあげたのです。
ちゃっきりぶし全30節。
白秋のおっちゃん、いきなりやる気出しすぎ。書きまくるにもほどがあります。
静鉄コラムのページで、30番まである歌詞がすべて見られます。また、静鉄狐ヶ崎の駅には「ちゃっきりぶし」誕生を記念する「ちゃっきりぶし由来」が掲げられているのですが、ここでも全30節を読むことが出来ます。
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ありがたいことに、静鉄のコラムのページでは曲を聴くことも出来ます。といっても30番まで唄うわけではなくて、掲載されている歌詞の1番・7番・2番をつなげた一般的なバージョンです。
計ってみたところ、この「3番まで版」で3分37秒です。ということは、単純計算するとフルコーラスで30分以上。うっかりカラオケボックスで唄おうものなら、「ロード」を全章唄い切るのと同じくらいはた迷惑です。
静鉄のコラムにこんな面白い一節があります。
後年、あの白秋をくどきおとした長谷川部長が町田嘉章氏に、「実は先生のお宅で初めて『ちゃっきりぶし』を聞かしていただいたとき、期待はずれでガックリしましてね。」と語って大笑いしたそうだ。
ははあ。長谷川部長が詩壇の重鎮・北原白秋に、是非に!と依頼したとき、その頭には「格調高い、重厚な民謡を」という願いがあったのかもしれません。「♪ちゃっきり・ちゃっきり・ちゃっきりよ♪」というわかりやすくて軽妙な、今風に言えばキャッチーな節回しを聞いて、激しく落胆したものと思われます。まさか「きやァるが啼くから雨づらよ」を30回も繰り返されるとは思ってもいなかったに違いありません。
なお、「きやァるが啼くから雨づらよ」という言葉が白秋先生の心をがっちりとらえた事情と、最終的に「きやァるが啼くんて雨づらよ」に変更された経緯についても、コラムに詳しく載っていますので、ぜひ読んでみてください。
ところで、当初「私は民謡をつくったことがないから」と長谷川部長を追い返した白秋先生の、「ちゃっきりぶし」作詞後の足跡をたどってみましょう。
昭和4年 | 平塚新宿耽二業組合に招かれ、『平塚音頭』と『平塚小唄』を作詞 |
昭和5年 | 稲田青年団の依頼により『多摩川音頭』を作詞 |
昭和7年 | 湖西市鷲津を訪れ、『鷲津音頭』を作詞 |
昭和10年 | 20日あまり湯ヶ島に滞在し、『湯ヶ島音頭』を作詞 |
白秋のおっちゃん、いきなりやる気出しすぎ。書きまくるにもほどがあります。
「ちゃっきりぶし」。それは大ヒット地方民謡であるだけではなく、北原白秋大先生が「ご当地ソングライター」として開眼するきっかけとなった曲でした。静岡県民は、この民謡に大きな誇りを持つべきである、とKoは考えつつ、今回の調査を終了するのでした。
[追記]2005.12.02
2005年11月30日放映の『静岡○ごとワイド』で、この記事と同じ「ちゃっきりぶしは30番まであるってホント?」がレポートされてました。白秋直筆のながーい巻物状の原詩も登場。
そして「日吉の会」という民謡グループに、実際30番まで歌ってもらったところ、フルコーラスで「34分27秒76」だったそうです。私の計算は合ってました。
しかし、「日吉の会」のおじいちゃんおばあちゃんたち、途中に休憩まで挟んで30分超歌ってくれたのに、オンエアでは2分くらいになってました。お、お疲れ様です……。
<by Ko>
「ちゃっきりぶし」が北原白秋作だとは知りませんでした。
昔、東京で仕事をしていたときに、歓送迎会かなんかで仕事仲間20人位とカラオケに行き、誰かが間違ってエントリーして「ちゃっきりぶし」がかかってしまい「私、静岡出身なんで歌います!」と歌ったことがあります。
大爆笑をとりましたが、その後1ヶ月くらいは職場のみんなに「あめずらよ」と呼ばれてました。
投稿: sumire | 2005年10月 7日 (金) 22時07分
おお、そうか。たしかに県外で唄うとけっこう受けそうですねえ。なにしろ「ちゃっきり♪ちゃっきり♪ちゃっきりよん♪ きャァるがなんくてっ♪ あめづぅぅぅらぁよぉぉ~♪」と調子がいいですからねえ。
記事で紹介している「白秋庵」は狐ヶ崎の駅の近くにあるんですが、小さいながらもなかなかいい雰囲気のいおりでした。ジャスコ清水店あたりに行く機会があったらよってみて、白秋気分に浸ってみるのもよいですよ。
投稿: Ko | 2005年10月10日 (月) 16時57分