河合 克敏(かわい・かつとし) 漫画家
静岡県出身であることは、けっこう知られていると思います。理由は、連載デビュー作にして出世作である柔道漫画『帯をギュッとね!!』(通称・帯ギュ)が静岡県を舞台にしていたから。
柔道部員である主人公・巧とその親友・杉は、高校進学前に受けた昇段試験で、同学年の斉藤・宮崎・三溝と出会い、強い印象を抱く。そして無事地元の浜名湖高校に合格した巧と杉は、当然のように柔道部に入ろうとするのだが、なんと浜高には柔道部がなかった。斉藤たちといちから部を作ろうとするのだが……
そんな風に始まる『帯ギュ』は、地元感満載の作品。浜松駅前や西部体育館、草薙総合運動場に、静岡市中央体育館など、おなじみの場所がバシバシ出てきます。大会に遅刻しそうな巧たちが、うっかり逆方向の名古屋方面の新幹線に乗ってしまったときにあげる悲鳴「げー!弁天島!」など、県外の人にはわからないネタです。
河合克敏さんは、現在の浜松市北区にある引佐郡引佐町の出身。父親が柔道五段で自身も柔道を習ったため、よく知る柔道部の世界を漫画にしました。とかく格闘技漫画は「ど根性もの」になりがちですが、「柔道部あるある」や部員のキャラクターを生かした軽妙なセリフ回しで、明るくコミカルな青春物語に仕上げたところが、大きく評価されました。
初連載の『帯ギュ』で長期連載、単行本30巻の売り上げも好調、と素晴らしい活躍を見せた河合さんですが、さらにすごかったのはその後。
自分のよく知る世界を描いてヒット作を生み出した作家は、そのあとがなかなか続かないことがよくあります。しかし河合さんはすぐに始めた次の連載『モンキーターン』もで大ヒットを飛ばします。こちらは競艇の世界を綿密な取材に基づいてつづったものであり、それまで有名作が出ていなかった「競艇漫画」というジャンルの代表となりました。
アニメ化やゲーム化まで成し遂げた『モンキーターン』の連載終了後、「次はなんの競技に?」と各スポーツ界から熱い視線が注がれましたが、なんと河合氏が手をつけたのは「書道部」。
『とめはねっ!鈴里高校書道部』は、「本気の文化系部活動漫画」の草分け的存在です。
今でこそ、吹奏楽部や科学部、放送部などの文化部を取り上げるメディアが多くなっていますが、書道部はしぶいですね。河合氏の柔道部⇒競艇⇒書道部という漫画の新しい分野の開拓には、非常に先見の明があったと言えます。そして、『モンキーターン』の底には浜名湖競艇場が、『とめはねっ!』の着想には書道が盛んな浜松の文化が流れており、浜松出身の経歴がいかんなく発揮されています。
つぎつぎと新ジャンルを拓いていく河合克敏氏。つぎは何を「面白い」と注目しているのでしょうか。ぜひまた静岡を舞台に! 「茶栽培農家」とかどうですか、河合先生!
(by Ko)
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