現在ネット上では、オシム氏が本当に引き受けるのか、その場合ジェフはどうなるのか、誰がスタッフになるのか、どんなチームが作られるのかなど、盛んに議論が繰り広げられています。
それにしても、6月に『オシムの言葉』を紹介したのは、不思議なめぐり合わせでした。
4~7月をサッカーネタ強化期間とし、読みごたえのあるサッカー本を紹介しよう、という意図でこの本を選びました。それから一月もしないうちに、オシム氏がこんな「時の人」になるとは……。
オシム氏を語る上ではずせないのが、1990年のワールドカップでの名伯楽としての活躍です。
1986年、彼はユーゴスラビア代表監督に就任し、4年後のW杯イタリア大会を見据えて動き始めます。当時のユーゴは、「5つの民族・4つの言語・3つの宗教・2つの文字」などという数え歌で表されるような、複雑なモザイク国家でした。民族融和という理想を掲げつつも、ボスニア人、セルビア人、クロアチア人、スロベニア人、モンテネグロ人、そしてイスラム教徒の間で、民族・文化的な軋轢(あつれき)が絶えませんでした。
しかもある意味では困ったことに、この時のユーゴスラビアには、大変能力の高い選手が多数揃っていました。
となると、どうなるでしょう。
代表選手の選出や、試合での起用について「うちの地域の選手を使うべきだ!」という各地からの大きな圧力が、監督に対して加えられるんですね。例えばこれは、小野と中田英の起用をめぐって、静岡と山梨がいがみ合いつつ、ジーコ監督に詰め寄る、みたいなものです。
勝てば勝ったで、負ければ当然のように、マスメディアを中心とした国民からの重圧は強まるばかり。そんなプレッシャーの中で予選を勝ち上がり、イタリア大会への出場を決めたオシム氏の精神力は並大抵のものではありません。
そして、そのオシム氏の精神力の「すごみ」が爆発したエピソードが、イタリア大会の初戦である西ドイツ戦です。ここで、オシム・ユーゴスラビアは、わざと負けたと言われているのです。
初戦を落としてはいけないというのは、今回日本がいやというほど思い知らされた、ワールドカップの鉄則。予選リーグで初戦黒星のチームが、決勝トーナメントに進出した確率は、10%にも達しません。それなのに、オシム氏はその大事な初戦で、故意に敗北したのです。
なぜそんなことをしたのか。
ワールドカップ開始に先立ち、ユーゴスラビア各地のマスメディアはますますヒートアップします。
「わが地域のスター選手を起用せよ」と。
しかし、オシム監督には選手起用についての明確な考えがありました。
「サッカーはバランス。地味な汗っかきが支えてこそスターは輝くのであって、スターばかりの集まりでは勝てない」
なんと彼は「スターばかりの集まりでは勝てない」ことを証明すべく、敢えてスターばかりを揃えたスターティングメンバーで西ドイツ戦にのぞみ、1-4という大敗を演じてみせたのです。とんでもない冒険。自分の采配と選手の実力を信じていなければ絶対にできない、危険な賭けです。
これによってマスメディアを黙らせた後、オシム監督はチームを緻密な作戦に基づくバランス重視の布陣に戻します。そして、続くコロンビア戦とUAE戦で快勝し、その戦略の正しさを証明しました。
バランスを重視し、地味でも骨惜しみしない選手を愛するオシム哲学は今でも健在で、それはドイツ大会前に行われたオシム監督の会見においても見て取れます。ここでの彼の言葉は日本代表が抱える問題を鋭くえぐっており、まるで今回の結果を予見していたかのようです。
1990年イタリア大会、決勝トーナメントに進んだユーゴは、続くスペインとの戦いに勝利。ベスト4をかけた準々決勝の相手は、あのマラドーナ率いるアルゼンチンでした。この強敵を相手にして、ユーゴは前半に選手が一人退場となります。しかも退場となったのは、マラドーナを抑えるために起用したマンマークのスペシャリスト、サバナゾビッチでした。ユーゴスラビア、絶体絶命。
しかし、1人少ないユーゴは、オシム監督の的確な采配のもと、残り88分を果敢に攻め続け、0-0の引き分けに持ち込むという奇跡的な試合を演じます。
結果的にPK戦で敗れはしましたが、この大会でのユーゴスラビア代表は、「伝説のチーム」としてワールドカップの歴史に名を刻んでいます。そして、名将・オシムの名も、人々の心の中に刻み込まれました。
ちなみに「スター布陣ユーゴ」を下した西ドイツは、このイタリア大会で優勝。「10人ユーゴ」をPK戦で破ったアルゼンチンが準優勝しています。
この大会後、一気に進んだユーゴスラビア崩壊については、ここで簡単に語れるようなものではありません。
凄絶な内戦。オシム一家の悲劇。ヨーロッパ選手権予選でのユーゴ代表の哀しい強さ。
この記事を見て、オシム氏に興味をもたれた方は、ぜひ『オシムの言葉』を読んでいただきたいと思います。彼の歩んだあまりにも過酷な半生と、ユーモアあふれるコメントの背後にある厳しさと優しさを知ってください。
サッカー通からは、総じて好意的に受け止められているオシム・ジャパンへの動き。個人的には、彼が日本代表を鍛えたらいったいどうなるのか、とても興味があります。
一方で、ジェフユナイテッド市原・千葉という、お世辞にも恵まれているとは言えないチームで、教師のように厳しく温かく選手たちを育てているのが、オシム氏には似合っているような気もします。なんというか、あの大きな体には「ブランドの服」が合わないように思えるんですよね。
とりあえず、今後の展開をじっと見守りたいと思います。
<by Ko>
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【関連リンク】
⇒ 書籍『オシムの言葉』紹介記事
⇒ ジェフユナイテッド市原・千葉ホームページ(オシム語録があります)
⇒ 2006FIFAワールドカップオフィシャルサイト
⇒ 日本代表応援サイト サムライ・ブルー
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